渋谷で華僑マフィアとヤクザと警察が衝突したことがあった。

 まるで往年のヤクザ映画みたいだが、ヤクザ映画が生まれる前の話。ヤクザ映画脚本のネタになったのかもしれない事件が渋谷であった。1946年だから終戦の翌年の出来事。日本に残留した台湾人武装グループ、渋谷警察署、ヤクザ(落合一家、武田組、万年東一一派の連合)の三者の抗争が起こった。後に言う渋谷事件である(ナレーション風に)。現在の宇田川交番と龍の髭と角海老個室浴場の三角形は、68年前の三者衝突の結果を語っているように感じる。

 終戦直後、宇田川町の闇市には華僑総本部が置かれていた。つまり渋谷は東京の台湾人華僑コミュニティの拠点だった。華僑総本部は闇市で飲食店をいくつか経営するかたわら、ご禁制品々(統制物資)を販売していた。(その飲食店の末裔が龍の髭と麗郷?)その上、華僑総本部が宇田川町エリアを台湾人街にしようと中華街にあるような門を建てたらしい。渋谷事件がなければ、渋谷は日本最大の中華街になっていたかもしれない。
 渋谷警察署は華僑の販売している不法な物資を没収し、ついでに屋台(不法建築家屋)をぶっ壊したが、雨後の竹の子よろしく屋台は再建され闇物資があふれた。そんなわけで渋谷警察署と華僑総本部は真っ向から敵対し、ついに闇市を通る警察官が集団暴行を受ける事態になるまで関係は悪化した。で、そこにヤクザが参入してきて話がややこしくなってくる。ヤクザはヤクザで東京の各地で在日外国人勢力(マフィア?蛇頭?)と敵対していたが、台湾人マフィアに殴りこまれて死者まで出していた。こうなると渋谷宇田川町は敵の本丸。ここでヤクザと警察の利害が一致した。
 三者の激突シーンでは、ヤクザは機関銃ぶっ放し、華僑のトラックの運転手は頭を打ち抜かれ、トラックは民家に突っ込んで炎上!ヤクザ映画顔負けどころか、これじゃギャング映画。事実は映画より危なり。詳しくは→「渋谷事件

 結局この抗争で、渋谷警察署はヤクザ連合に借りができただけだった。
 これは当時のヤクザの常套手段。警察と敵対勢力の抗争の間に入り込んで、警察に代わって(?)敵対勢力を一掃してしまう。ヤクザに借りのできた警察は、ヤクザの不法行為にお目こぼしというか、見て見ぬふりをせざるを得なくなる。渋谷事件と同じようなやり方を当時の山口組も用いた。港湾労働者と兵庫県警の抗争(レッドパージ?)の際、山口組が体を張って警察側を守った。その結果、兵庫県警は山口組に頭が上がらなくなり、その後の山口組の勢力拡大につながっている。(神戸市OBに聞いた話)
 渋谷警察署の「見て見ぬふり」もあって、ヤクザは風俗店を渋谷で開店できるようになったんじゃないか、と勝手な想像している。(実際、パチンコと同じく個室浴場も「微妙なところ」で警察から摘発されない仕組みになっている。)

 渋谷事件から数年後、東京都は闇市や屋台(露天商)の一掃を推し進めて、東京中の公道から屋台が消えてしまった。ちなみに秋葉原ではラジオ部品の露天商がラジオ会館に押し込められた。宇田川町の闇市も姿が姿を変えていったが、台湾料理店と風俗店は残った。その前に宇田川町交番がでんと構えているのは、渋谷事件の後、三者の間でなんらかの手打ち(密約)があったのではないかなとかんぐりたくもなる。
 今では渋谷警察署は渋谷から暴力団を一掃(表向き?)し、センター街の犯罪発生も減少している。性風俗もノマド化し、百軒店も大人しくなった。龍の髭が取り壊されたのは老朽化が原因だとは思うが、時代とともにこれまでの三者関係が意味をなくしてしまったんだなぁとしみじみ思う。次は角海老個室浴場ビルの番。5年以内に建て替わると予言しておく(誰でも想像つくけど)。また一つ渋谷の闇黒史が見えなくなっていく。