かつて渋谷には、冬になると白鳥が渡ってくる池があった。

白鳥の飛来する池というと、なんだか北国の春な気分になるのだけれど、実際のところは、東京近県にも、白鳥が何百羽もやって来る場所があるらしい。東京に近いところでは、千葉県の印西市(千葉ニュータウン)、埼玉県の川島町、深谷市までは、飛来しているそうだ。(ただし、コハクチョウがメインみたい)

だから、渋谷にまで飛んで来ていてもおかしくはないのだけれど、今では、そんなイメージは微塵もない。といっても、明治時代には、牛乳が生産されていたぐらいだから、渋谷は昔は、けっこう牧歌的な土地だっがのかもしれない。

渋谷駅から渋谷川沿いに南へ数百m、現在は都営バスの車庫がある一帯が、「田子免池(たごめんいけ)」という大きな池だった。
江戸中期1716年頃、この池が白鳥の餌付場になった。それ以前から渋谷川沿いの湿地帯や水田には、白鳥が飛来していたのだと思う。餌付けが始まったときから、池一帯が幕府の御用地になったらしいから、将軍や大奥の行楽用だったのかもしれない。餌付場になってから30年もすると、飛来する白鳥の数は半減し、1765年に餌付は50年ほどで終わってしまったようだ。
その後、明治の末に火力発電所が建設されるのに伴って、田子免池は発電機の冷却水の貯水池に改修された。1923年の関東大震災後、周辺地域の瓦礫やゴミで埋め立てられ、池はなくなってしまったらしい。いまでは、都営バス車庫と都営住宅、区立植物園が建っているが、渋谷川脇には、東電の古い変電所が残っている。

白鳥の湖のその後は、「醜いアヒルの子」とは真逆。渋谷に飛来するのは、たくさんの白鳥から、たくさんの黒いカラスに変わってしまった。しかも、毎日飛来する。カラスがゴミ袋を破って、中身を散らかしてしまうのは困るが、彼らも子育てに必死みたいなので、人の親としては、一方的に攻められないものを感じなくもなくはなかったりしなくもない。
そもそも、ビニールのゴミ袋を直に路上に置くから、簡単にカラスに破られてしまう。渋谷でもブルックリンみたいに、大きなゴミ箱(バケツ)にゴミをきちんと入れて出すようにしないとね。せっかく渋谷区が無料で配ってるネット付バスケットだってあるんだし。